映画の解説
もちろん原作を忠実になぞるとは思っていませんでしたが、(約1000pの原作を180分に収められないので)
「ノーラン・タイムライン」(動画参照/55秒〜)全開でガンガンシーンを切り替えてまとめてきましたね。加えて今回はオッピーの過去も間に挟まなきゃいけないので大忙しでした。
一回しか見てないから怪しいところもありますが、今回の二重タイムラインは①オッペンハイマーの聴聞会、②ストローズの公聴会(白黒映像)
プリンストン高等研究所着任まででオッピーの過去が分断されて二つのタイムラインの合間に入れ込まれており、①と②が呼応する形で展開されていました。
オッペンハイマーは妥当ナチスのためにガジェットを製作した結果、全世界を破壊しかねない核の連鎖反応を開始するという因果を引き受けています。
一方、オッピーを陥れる計画の全ての黒幕はストローズでした。そして映画版ではそれが故にストローズが今度は自身の公聴会にて追及されるという因果が強調されていました。
さらに、その二人の因果はプリンストン高等研究所にて初めて彼らが出会い。アインシュタインとオッペンハイマーが会話をするところで合流していました。
そこでは、オッペンハイマーが自身のやったことの責任についてアインシュタインに自覚を促されていましたが、ストローズはそれを、科学者たちが自分に敵対するようにオッペンハイマーが差し向けいているという疑惑として受け取ります。
この出来事は、オッペンハイマーにとっては行動と責任の折り返し地点になっており、ストローズにとっては自らの因果の出発点となっております。
全体として映画版の方がアインシュタインとストローズの重要性がきわだっていましたね。ストローズは完全に裏主人公でした。
映画の感想
評価は難しいですが、ノーランのSFは理解することにリソースが割かれて、印象が置き去りにされるところがあるので、シンプルなノンフィクションもいいかと思いました。
ただ、ストローズをオッペンハイマーの裏で応報を受けさせるには、相対的にスケールが小さく、かといってストローズの人間味まで深掘りされていなかったですし(疑念の発端が内緒話というところも小物感が…※実際原作では当初オッピーに小物扱いされてるのですが)
オッペンハイマーの人生はそれだけで十分ストーリーパワーがあると思うので、欲張らず、彼の因果だけをドンと据えるだけでもよかった気はしました。
原作の感想
先にも触れた通り原作は時系列通り物語が進んでいきます。
ただし原作はピューリッツァー賞を取るようなゴリゴリのノンフィクションなので小説のようなノリとは違います。
事実が判然としない部分は多角的にインタビューやメモを参照した上で真実らしきものを繋いでいくスタンス。このあたりはジャーナリズム精神を感じるものです。
ただし、かなり直訳に徹しているので、日本語のリズムと違い代名詞がなにを指してるのかわかりづらいところがあります。
また、人物多くて頭に入らず、さらに急にファーストネームになったりラストネームになったりするので余計に入らない…と言うところは個人的には難点でした
しかし、映画では触れられていなかった、幼少期のオッピーの鉱物オタクぶりや、乗馬やヨットに明け暮れる趣味の一面、セントジョン島での晩年なども語られています
また、今回の物語でキーとなる「保安許可(security clearance)」をめぐる文脈も整理しやすいと思います
そして諸説ある「毒リンゴ事件」や超重要な「シュヴァリエ事件」も多角的に詳しく書いてあるので、原作もぜひ読んでほしいですね