人が苦手、こだわりが強い、ノイズに弱いといった自閉傾向がある人は社会的に抑圧されて、自己肯定感を得ずらかったり、対人ストレスが多く精神的な健康状態に問題を抱えることが多いんですよね。
こういった人は他の人と同じやり方では幸福追求することが難しく、周囲と同様の戦略を取ることにかえって疲弊を覚えて有害であることもしばしば。
では自閉傾向がある人はどのように幸福追求したらよいのか…
今回「バース大学心理学部応用自閉症研究センター」の研究から3つの注意点がわかりました。この論文は自閉症の若者の幸福に関する文献から、実体験から自閉症の若者とその親が述べた幸福につながる要素を取り込みまとめたものです。
さて、その3つとは「成長と休息の綱渡り」「社会の中で自己肯定感を育成」「内面的な幸福の源」です。
①成長と休息の綱渡り
成長と休息のバランスは誰しもにとって重要であることは言うまでもないが、自閉者のそれは周囲の者とは異なっている。そのため無策に定型発達(発達障害でない人々)に合わせて生活しているとそれだけでバランスを崩すことがある。
それではどのように異なっているかというと、
⑴自閉者は定型者に比べ、親しみを持てる安定した環境での休息がより多く必要であることが多い。
⑵自閉者がどの程度休息が必要かは状況や個人差に大きく左右されるため定型者以上に個々人のバランスの見極めが重要である。
自閉者にとっては社会でやっていくためには人一倍努力が求められるかもしれない。例えば、世の中は自閉症であることを理由に進学や就職を待ってはくれず、経済的、雇用的、居住的な不安定を経験しやすく、それが幸福に対する障壁となることが多い。
しかし一方でそのような住居、経済、職業の課題に関して自立的に向き合い、計画や行動し目標を達成することが幸福のために重要である。そのためには慣れ親しんで心地よいと感じる境界を少しずつでも押し広げていく感覚を持つと良い。
休息に関しては、家族やソーシャルサポーターなどなるべく多くの「一貫性があり、予測可能性の高い安定した関係」を持っておくことが重要。
また、しばしば自閉者は孤独を必要とするので、孤独と社交のバランスを取ることも重要。
他にも、ゲームやファンタジーの世界に没入したり、マインドフルな時間を取ることで困難に対処しやすくなるという意見もある。
②社会の中での自己肯定感の育成
人は誰しも社会的に認められた成果や能力に誇りを感じる。それは自閉者であっても例外ではない。
一部の自閉者は定型者と同じように社会の中で機能できたと思えたときに誇りを感じる。
また、認知再構築法や問題解決力、感情認識及び調節スキルを用いることで困難に対処しやすくなる。
自閉者であることを受け入れ強みに気がつくことや、他の発達障害者とつながることも良い結果をもたらす。
自閉者の若者の中には、人間関係の複雑さや、人間関係を構築する上での困難から、そのような関係を持つことが幸福において重要でないと考える者もいたが、一方で社会的なつながりが必要だと考えるものもいた。
これは元々自閉者にも社会的欲求はあるが、否定的な社会体験をしたことで、以降友人追求の気持ちが減少していることに起因している可能性がある。
また、多くの自閉症者が社交に関心があると述べているにもかかわらず、社会的行動の違いを周囲の人が関心の欠如を示していると誤解している可能性もある。
自閉者は他者から受け入れられていると感じることが必要であり、それによって前向きな自意識を育むことができる。受け入れられるということの中には、他者から、「賞賛され、認められ、尊敬される」といった経験も含まれる。このように自閉症の特徴が受け入れられ、他の人と同様に社会に溶け込めることが求められる。
海外の自閉者の親の中には、ビフレンディング・プログラム(高齢者や精神疾患などのせいで社会的に孤立している人の交流を助けるプログラム)やストラクチャード・アクティビティ(大人がガイドラインを提供して子供に方向性を示すような活動)を重視する者もいる。これらに類する活動を探して取り入れてみるのも良い。
外で交流を持つのが困難な自閉者にとっては、家族兄弟のつながりは定型者以上に重要な関係性の資源である。
周りの大人は自閉者が自閉症であることを受け入れ、それをアイデンティティにすることに対して自分の意見を押し付けないことが重要。
③内面的な幸福の源
自閉者は多様な興味関心や創造的な追求心を持っており、それは肯定的な感情と関連していた。
こうした興味は、若者に目的意識をもたらし学習を促進した。また自閉者は創造性によってポジティブな感情や集中力が誘発されると感じている。
自閉者の若者は自然や動物との強いつながりからくる経験が幸福感をもたらすと述べている。
肯定的な感情は他者との接触とも関連しており、多くの若者が家族との愛情に満ちた温かい関係について話している。他にも身体的な経験、例えば心地よいものに触れる、ハグをする、といったことがもたらすメリットも大きい。食事や運動も幸福感に貢献している。
まとめ
このように自閉者が幸福を追求するためには
「安定した環境を持ちながらも、自立に向けた活動を広げていくこと」「周囲の人は自閉者を受け入れ強みを認識できる環境を整えること」そして、「好奇心や創造性、自然や動物との関わり、身体的な接触といったポジティブな内面性を高めてくれるものに注意を向けること」が重要である。
これらのポイントは自閉傾向がある当事者が幸福追求の指針にするのも良いと思いますが、いずれも自閉者にとっては達成するのは困難であるがゆえに有意義なものなので、家族や周囲のサポーターにこそ押さえていただいて自閉者と接し方や環境づくりを手伝ってもらいたいです。
自閉者のウェルビーイングの改善は、自閉者に対する否定的な態度を減らし、受け入れる環境を作ると言うように、当人だけでなく社会レベルで取り組む問題でもあります。
参考文献
Cooper, K., Kumarendran, S., & Barona, M. (2024, March 15). A Systematic Review and Meta-Synthesis on Perspectives of Autistic Young People and Their Parents on Psychological Well-Being. Clinical Psychology Review Volume 109. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272735824000321?via%3Dihub