「生きづらいのは時代のせい⁈」進化の視点で考える(人が苦手、こだわりが強い、ノイズに弱い、ASD編)

ノート

前回に引き続き、『進化精神医学』の「進化論的視点から見た神経発達障害」というチャプターからメモ。

 

人が苦手であったり、こだわりが強いせいで、周りと上手くいかず生きづらいと言う人も多いと思います。

 

そんな自閉傾向がある人は進化的に見るとどんな存在なのか。

 

 

自閉症の特徴

 

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、さまざまな神経発達状態を含む。言葉を発せないほどの知的障害者から、特定の領域で優れた能力を発揮する人までいる。ASDは社会的・感情的なコミュニケーションの難しさや、限定された興味と繰り返し行動によって特徴付けられる一方、強い集中力により特定の分野で非常に優れた成果を上げることもある。

 

神経発達障害のある人は、他の神経発達障害を併せ持つことが一般的。

 

ASDは、以前は親子関係の結果と誤解されがちだった。しかし実際には脳の発達に関する病気であるとわかった。だが明確な原因は未だ不明。

 

ASDの原因には遺伝的、環境的な様々な影響があり、出産以前の母親の心理的ストレスも、子どもの遺伝的リスクに影響を与える可能性がある。

 

 

自閉症の進化論

 

自閉症は子孫を残す上で不利なことが多いにも関わらず、なぜ自然淘汰によって消えなかったのか?

 

知的障害を伴う自閉症は「特定の原因があり進化的に適応したものではない」という指摘がある。

 

一方、いわゆる「高機能自閉症」は進化的に見て適応的である可能性がある。高機能自閉症は遺伝的に高い割合で引き継がれる。自閉症に関係する遺伝子の特徴が、高い知能に関連する遺伝子の特徴と広く重なっている。

 

自閉症者は狩猟採集民の集団(約100~150人程度)には、それぞれ1人か2人いたようである。高機能自閉症者は、記憶や空間的スキルに卓越していることが多く、食料が乏しく孤独な採集力が求められる環境で生存の可能性を高めていた。

 

自閉傾向が狩猟採集民に有利だったにも関わらず、個人には不利だったことは、集団選択理論に基づくもの。これは特定の性質が個人にとっては不利でも、集団に利益をもたらすためにある個体が存在する可能性があるというもの。

 

自閉症は少なくとも30の遺伝子の相互作用により、多くは高機能自閉症の個体が生まれる。しかし、必然的に自閉症に低知能がかけ合わさる結果になる者もいる。これは進化の意図せざる結果。

 

例えば、染色体がランダムに組み合わされた結果、環境的に最適な身長よりも低くなったり高くなったりするようなもの。

 

人間は他の生物より知恵、特に社会的スキルを進化させた。ただし「知性」が何かとは、歴史上一貫しておらず、例えば、今日の知能テストは、粘り強さ、正直さ、信頼性などのスキルを測定していないことを考慮に入れる必要がある。

 

つまり、記憶や空間的スキルに卓越している自閉者は言わずもがな進化上有利であった。しかし環境上何をもって有利な知性とするかは難しいし、またASDの遺伝子の掛け合わせの複雑でさまざまなパターンが生まれる、必然的に環境に有利な者も不利な者もいると言うことですね。

これは自閉症に限ったことではないので説明としては物足りないですが、それだけASDは遺伝的要因と症状の発現の複雑さがあると言うことなのでしょうかね。

 

 

生存しやすい条件

 

自閉症の子どもは目を合わせたり、笑顔を返したりすることが少ないため、母親が苦労することが多く、母親が精神的な問題を抱えるリスクを高める。

 

母親にアピールし、養育者を惹きつけることに長けている乳児は生き残る可能性が高い。自閉症児はこのような能力が乏しいため、十分な社会的サポートがない母親の下では生存上の不利な可能性がある。

したがって、高機能自閉症の子どものほとんどが年長の父親から生まれるという傾向がある。なぜなら高齢の両親から生まれた自閉症児は、既に兄弟がいるため、彼らが十分に発達するまでの困難を乗り越えられる。

 

 

自閉症や類する傾向をもたらす要因

 

養護施設の虐待経験がある子供たちは自閉症に酷似した症状を示した。ASDとは異なりこれらの「準自閉症」症状は、特に2歳以下で養子にされ、養育家庭に迎えられるとしばしば改善した。

 

虐待やトラウマによって、ストレスレベルが高まりやすく、過剰な警戒心が生まれ、集中するのが難しくなるといった症状を見せることがある。そのような子供たちは過度に興奮し、学校教育に特に不適合に見えることがある。

その結果、ADHDやASDと誤診されることがある。一方、発達障害の子供たちもトラウマを経験することがあり、トラウマがあるからといって発達障害がないわけではないし、逆もまた然り。

 

妊婦の高いストレスは胎児に大きな影響を及ぼし、ストレスに対する反応や脳の構造を変化させることがある。このようなストレスは早産や神経発達問題と関連しており、特に不安な母親から生まれた低体重の赤ちゃんは、一生を通じて高いコルチゾール(ストレスホルモン)レベルと異常なストレス反応を持つことが多い。これらの影響は、感情や行動の問題を幼少期から成人期に引き起こすことがあり、これは胎児が生後の環境に適応するための進化的な適応である可能性がある。

 

妊娠中の母親がアルコールや薬を使用することは、胎児に影響を与える可能性。特に胎児アルコール症候群は、記憶や衝動制御に関わる脳の多くの領域に壊滅的な影響を与える。また、現代ではかつてないほど早く生まれた早産児が生存することもあり、進化の歴史はこれを想定していない。多くの早産児は深刻な神経発達上の問題を示している。

 

進化の視点から発達障害者の特性を汲んで、学校や社会制度を見直すことが求められる。

 

 

感想

 

ADHDの時と比べる扱いが厳しい上、中核症状(対人、こだわり、感覚)に対する説明があまりないのが物足りないですね。自閉症の発生は遺伝的にもかなり複雑なので、もう少し細分化してみないと確かなことが言えないというのが正直なところでしょう。

 

やはり進化論的な検証でも医学モデル同様、疾患の細分化が進むまではクリアな答えは得られそうにないですね。取り急ぎ、以前紹介した戦略をもとに個人的な特徴把握に励み対策作りに努めますかね

参考文献
Swanepoel, A., Reiss, M. J., Launer, J., Music, G., & Wren, B. (2022). Evolutionary Perspectives on Neurodevelopmental Disorders. Evolutionary Psychiatry: Current Perspectives on Evolution and Mental Health, 228–243. https://doi.org/10.1017/9781009030564.017

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