以前「【発達障害の天命】として『局所最適の罠』を打ち破る」という話をしました。
今回は以前、紹介したゲーム理論の「囚人のジレンマ」視点から発達障害がなぜ社会で意義を見出せるのか見ていきましょう。
「囚人のジレンマ」おさらい
まず、ゲーム理論において、一般的に「合理的な行動」とは、自らの利益を最大化することを目的とする行動を指します。しかし、すべてのプレイヤーが同様に自己利益の最大化を目指すと、かえって全体の利益が損なわれることがあります。これは「囚人のジレンマ」と呼ばれる状況で、典型的な非協調ゲーム(各プレイヤーが自分の行動だけで戦略を決めるゲーム)においてしばしば見られるジレンマです。
「協調的非合理」とは?
このような文脈において注目すべきが、あえて言うなら「協調的非合理」という存在です。これは、従来の合理性の枠組みに従わず、あえて予測困難な行動をとるプレイヤーのことを指します。このようなプレイヤーが存在することで、ゲーム全体のナッシュ均衡(誰も戦略を変えるインセンティブがない状態)が予想外の形で変化し、結果として全体の利得が向上することがあるのです。
たとえば、多数派のプレイヤーが同じように「合理的」に自己利益を追求すると、お互いに読み合いが進んで硬直した状態になり、相互不信や過度な競争によってかえって損失が発生します。ところが、そこに「別のルール」で動く少数派のプレイヤーが混ざると、その予測不能性によって他プレイヤーの行動選択が揺さぶられ、結果的に新しい均衡状態に移行する可能性が生じる。これは、従来の固定されたナッシュ均衡から脱し、より高い社会的利得を持つ状態へと遷移するきっかけとなりうるのです。
発達障害の登場
特に、ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)といった神経多様性(ニューロダイバーシティ)を持つプレイヤーは、一般的な合理性パターンとは異なる行動をとる傾向があり、ゲーム理論上は「読みにくく、予測不能な存在」として扱われるのです。彼らの行動はしばしば他プレイヤーの戦略想定から外れるため、ゲームの流れそのものに影響を与える可能性がある。この「予測困難性」は、協調ゲームにおける利得空間(得られる利益の範囲)を拡張する役割を果たすことがあります。
実際の社会や経済活動でも、均質的なプレイヤーだけでなく、多様性を持つプレイヤーが関与することによって、新たな協調パターンが形成される例は少なくない。これは、従来の常識にとらわれない発想や予想外の行動が、革新的な解決策や新しい利得の創出につながるためです。
言い換えれば、「協調的非合理」はゲーム理論においては標準的なアプローチではないものの、全体としての利得最大化や、柔軟な均衡形成において重要な役割を果たす可能性があるのです。
このように、非合理や多様性を単に“逸脱”として排除するのではなく、戦略的資源として活用する視点をからみることでも、社会の複雑な課題解決にもつながるヒントを得ることができることでしょう。