「診断の影」とは?見落とされる疾患

メモ

ASDの論文を漁っていたら「diagnostic overshadowing」という用語が出てきました。

直訳すると「診断の影に隠れる」といったところでしょうか。

私が最初に見た文脈では

”特に女性では、診断がつかないままにとどまる、診断評価の実施を待っている、あるいは「diagnostic overshadowing」を経験することがある。これは、不安・うつ病・摂食障害などの既存の健康問題が自閉スペクトラム症(ASD)の特性に誤って当てはめられ、そのため診断が遅れたり、まったく下されないことすらあるという現象である。”(著者訳;Hallyburton, 2022)

といった感じでした。重要な用語ですが日本語の資料があまりなさそうなのでメモ。

診断のオーバーシャドウイングとは?

  • すでにある診断(とくに精神疾患)に引っぱられて、新たな身体症状を精神的な問題のせいだと誤って判断してしまうこと。
  • 結果として、身体疾患の見逃し・遅れ・誤治療が起こる。

よくある例

うつ病の人が胸の痛みを訴えたのに、「不安のせいだろう」と決めつけて心臓の病気をちゃんと調べない、など。

なぜ問題?

  • 精神疾患をもつ人はもともと平均寿命が短い。身体疾患(心疾患・がんなど)の見逃しは死亡リスクの上昇に直結する。
  • 患者は「どうせ信じてもらえない」と感じ、受診回避につながる。

どんな場面で起きやすい?

  • 救急外来、一般診療、精神科病棟など現場の時間圧が強いところ。
  • 先入観やカルテのラベリングあるとき。
  • 提供者が精神疾患患者への対応に自信がないとき。

主な原因

  • バイアス:アンカリング(初期印象への固執)、早期閉鎖(早めの思考停止)、暗黙の偏見(スティグマ)。
  • 患者側の自己疑念:「自分の症状は気のせいかも」という迷い。
  • 記録のラベリング:既存診断が強調され、別の可能性を探らなくなる。

主な結果

  • 病状悪化、治療の遅れ、など。
  • 医療への不信、受診意欲の低下。
  • 偏見や誤診の再生産。

予防策・有効なアプローチ

  • 自省とデバイアス(チェックリスト/再評価の習慣化)。
  • 身体科×精神科の連携。
  • 記録慣行の見直し(不要なラベル強調を避ける)。
  • 看護師を含むスタッフのトレーニングとフィードバック。

用語の広がり

  • 元は「知的障害が精神症状の診断を覆う」文脈で登場 → 現在は精神疾患が身体疾患を覆う意味が中核。
  • さらに「既存のどの診断でも他の症状を覆い隠しうる」という広義の使い方も現れつつある。

対処法

  • まず現象の存在を認める。
  • 「精神科既往がある=身体所見は否定」ではない。バイタル・身体所見をゼロベースで評価。
  • 気になる所見があれば検査をためらわない。
  • 患者の訴えを繰り返し確認し、納得のいく説明を行う。

まとめ

一言で言うと:
「既存のラベルに引っぱられず、いま目の前の身体症状をフラットに診る」——それが診断的オーバーシャドウイングの予防です。

心因性の発作で動けなくなった時に、救急車で内科に運ばれた苦い記憶を思い出しました。

Hallyburton, A. (2022). Diagnostic overshadowing: An evolutionary concept analysis on the misattribution of physical symptoms to pre-existing psychological illnesses. International Journal of Mental Health Nursing, 31(6), 1360–1372. https://doi.org/10.1111/inm.13034

・Vincent, J., & Ralston, K. (2023). Uncovering employment outcomes for autistic university graduates in the United Kingdom: An analysis of population data. Autism, 28(3), 732–743. https://doi.org/10.1177/13623613231182756

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