前回バーンアウト、メルトダウン、惰性、シャットダウンをまとめたBIMSというものをしょうかいしました。(ASDを苦しめる「BIMS」とは? バーンアウト・惰性・メルトダウン・シャットダウン【トロント大学/ホーランド・ブルービュー】①)
さて今回は、実際の研究からわかった、ASD者がBIMSをどう体験しているのかと、どのように対処・支援すればよいかをみていきます。
まず、参加者8 名は8〜18 歳のASD診断を受けている若者で、 25〜45 分のZoom 面接を 2 回ずつ実施しました。
簡潔に分かったことを先に述べますと
- BIMS は、感情・考え(認知)・身体の反応が重なり合う多面的な体験として語られました。
- その多面性ゆえに、定型発達の大人には誤解されやすく、適切な支援が届きにくい要因になっています。
- 4つの体験の中では、メルトダウンが最も頻繁に起こるとされました。
参加者が知っていてほしいと思ったこと
メルトダウン
”ある参加者は「制御不能(メルトダウン)」を次のようにたとえた。
「破壊的な乗り物の乗客になって……いろんなものにぶつかっていく感じ」”
- 身体で起きること:闘争・逃走反応を思わせる強い生理的反応が次々に起こる。
- 頭の中で起きること:自分は「乗客」という感覚が強まり、コントロールできないと感じる。
- 心の中で起きること:強い感情やトンネルビジョンが前面に出る。学業など日常活動への影響も大きい。落ち着こうとしても感情が積み重なり、ストレス、フラストレーション、無力感、意欲低下につながる。
「消耗/凍結」状態(燃え尽き・惰性・シャットダウン)
- 身体で起きること:
- 「疲れ切った」感覚や「凍りついた」ような状態が共通して語られました。
- 体を凝り固まった生地や、動きの重いパソコンにたとえる表現もありました。
- 頭の中で起きること:
- 休憩するか続けるかなど、複数の選択肢の間で決めること自体が負担になります。
- 特に学校課題では、この認知的なジレンマがストレスになり、乗り越えにくいと感じられます。
特に惰性(inertia)については、なにかを始めること自体が難しい状態を指す、と説明されました。結果として生産性の低下が起こります。
- 心の中で起きること:
- 「消耗」の状態を抜けると、安堵を感じることが語られました。
ある参加者は「凍りついた感じ」のとき、二つの感情と認知的なジレンマが同時に起きると説明しました。
重要なのは、これらがスペクトラム(連続体)として起こりうることです。つまり、情動面と認知面が重なって現れ、必ずしも別々ではありません。
「コントロールできない」と感じるとき、どう助けるか
- 4つのBIMSのうち、人生で最も顕著に感じるものはメルトダウンだと参加者は述べました。 これは、①大人の会話で取り上げられやすい、②日常生活への影響が大きい、③語彙が発達して語りやすい、④発達や成熟に関わる要因――などが影響している可能性があります。
- 参加者は3つの主要な考え方を強調しました。
- 自分がコントロールできないと感じてしまう原因を知る」「コントロールを取り戻すための戦略を学ぶ」「自分の気分を悪化させる原因を理解する」です。
「制御不能」になる原因を知る
- 燃え尽き・ストレスの蓄積 課題要求が重なり、疲労やストレスがたまるとメルトダウンにつながりうる。燃え尽きとメルトダウンを同時に経験することもある。
- 予定の不意の変更 休み時間の遊びが突然できなくなる等、想定外の変更が引き金になる。
- 過剰刺激(感覚/社会/認知) 音・光・人間関係・考える負荷などの刺激過多でコントロール不能感が増す。
「制御」を取り戻すストラテジーを学ぶ
- 一般的な助言の限界
参加者は一般的な助言に対して
”「まあ、この手の話をわたしがしてきた大人はみんな、『その場を離れなさい』って言うの。でも、その助言はあまり役に立たない。だって、ときにはその場を離れられないこともあるから。授業中だったら離れられないし、その日は残りずっとそこにいなきゃいけない。」”
と述べいているののもいます。 - 実際に効いたこと(参加者の語りより)
- 楽しい活動:思考・身体反応・感情の舵を取り戻す助けになった。
- ポジティブ/支援的な関わり:家族・友人・ペットと関わり、気持ちや考えを言葉にすることで落ち着きやすい。 とくにメルトダウン中に話を聴いてもらえることの重要性が語られた。
- ボディブレイク/環境調整:短い体の休憩を取り、必要に応じていまの場から離れて時間と空間を確保する。
- 学んだ方法の“自分流”アレンジ:大人から教わった形式的な方法を自分に合う形に応用(例:iPadで行動をマネジメント)。
まとめ
- この研究は、子ども・若者が経験する BIMS を新しく、わかりやすく示しました。
- 先行研究が示してきた通り、BIMSは多くの自閉スペクトラム当事者の生活にとって重要な一部です。
- 参加者は バーンアウト を
- 慢性的な疲れ、
- できていたことが難しくなる(スキルの低下)、
- 刺激への耐性の低下
といった面から語りました。原因としては、高い要求が長く続く環境が挙げられました。
- 先行研究はバーンアウトを「マスキング(周囲に合わせて自分を隠すこと)」の消耗とも関連づけましたが、本研究の参加者はマスキングを明示的には語りませんでした。
支援のポイント
- 自閉の子ども・若者は、感じ方も反応も一人ひとり違う。 → BIMSだけで“自閉はこう”と決めつけるべきではない。
- BIMSは、外から見える行動を理解する手がかりとして使います。 たとえば、怠け・反抗・攻撃に見える行動でも、まずは理由をたずね、背景を一緒に考える姿勢が大切です。
- メルトダウンのような「コントロールできない」状態への支え方は人によって大きく異なる。
- 例:身体的な安心(抱きしめる等)が落ち着きにつながる人もいれば、 そっと一人にするほうが落ち着く人もいます(視線や会話の負担が減る)。
- なので、本人と一緒に話し合い、試し、見直す時間をとり「そのひとにあった」支援を見つけることが重要。
- これは、ASDに限ったことではなく、非自閉の同年代にも役立ちます。
大人の関わり「協働的レギュレーション(Collaborative Regulation)」
- 参加者は、多くの大人が自分たちのBIMS経験を十分理解していないと感じていました。
- いちばんうまくいったと語られたのは、保護者や支援員など「重要な大人」と協働してストラテジーを考え、実行したときでした。
- 「協働的レギュレーション」とは: 子ども・若者と大人が一緒に感情・行動の整え方(ストラテジー)を育てること。 これにより、屈辱感・後悔・恐れを減らし、前向きな支援の機会が増えます。
- 大人が担うポイント:
- 感情への感受:今の気持ちを丁寧にくみ取る
- 励ましと妥当性の付与:感じていることに「それでいい」と正当性を与える
- 主体性の尊重:目標や方法を本人が選べるようにする
ここでは紹介しきれませんでしたが、原文ではさまざまな言葉(比喩)を尽くして、参加者たちはBIMSの体験を表現してくれました。(詳しくは原文をおよみいただきたい)
本人や周囲のBIMSに対する理解があることが重要であるとともに、各々の体験は多様であるため、型にはまりすぎるのも良くないということ。そして、ソーシャルサポートが非常に重要であること。
Phung, J., Penner, M., Pirlot, C., & Welch, C. (2021). What I wish you knew: Insights on burnout, inertia, meltdown, and shutdown from autistic youth. Frontiers in Psychology, 12, 741421. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.741421