ASDとカタトニア(日本では「緊張症」などと呼ばれています)の関わりについての研究を読んだのでメモ。
ASDの人には、カタトニアによくある症状が見られることがある。
ASDは主に社会的コミュニケーション・対人相互作用のむずかしさや限定的・反復的な行動や興味(こだわり)の特徴があります。
一方カタトニはDSM-5-trによると
カタトニアとは
以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が優勢である.
(1)混迷(すなわち、精神運動性の活動がない,周囲と活動的なつながりがない)
(2)カタレプシー(すなわち、受動的にとらされた姿勢を重力に抗したまま保持する)
(3)蠟屈症(すなわち、検査者が姿勢をとらせようとすると、ごく軽度で一様な抵抗がある)
(4)無言症〔すなわち、言語反応がない,またはごくわずかしかない(既知の失語症があれば除外)〕
(5)拒絶症(すなわち、指示や外的刺激に対して反対する。または反応がない)
(6)姿勢保持(すなわち、重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持する)
(7)わざとらしさ(すなわち、普通の所作を奇妙、迂遠に演じる)
(8)常同症(すなわち、反復的で異常に頻繁に起こる、目標指向のない運動)
(9) 外的刺激の影響によらない興奮
(10) しかめ面
(11)反響言語(すなわち、他人の言葉を真似する)
(12)反響動作(すなわち、他人の動作を真似する)
(日本精神神経学会,2023)
とあります。
動かなくなったり、話さなくなったり、行動パターンに変化が起きたりするということですね
近年、カタトニアと自閉スペクトラム症(ASD)の関係に注目が集まっています。
両方に共通する症状(人と関わろうとしない、同じ動きをくり返す、オウム返しの言葉など)があるため、ASDの人にカタトニアが起きていても気づきにくく、診断が難しくなります。
なぜ一緒に起こりやすいのか?考えられている理由
- GABAのはたらきの乱れ
脳の「ブレーキ役」である物質(GABA)の働きに問題が、両方で報告されている。 - 脳内回路のつながりの問題
脳の配線やつながり方に、共通する異常があるかもしれないと考えられている。 - 小脳の大きさ
画像検査では、両方で小脳がやや小さいという所見が報告されている。 - 遺伝のかかわり
第15染色体の特定の領域が関係している可能性が示されている。 - つらい体験(逆境)の影響
発症前のストレスやトラウマなど、感情面の要因が関与する可能性がある。 - 気分・不安との関係
カタトニアは気分障害や強い不安の表れかもしれず、ASDの人は不安やうつになりやすい。これがカタトニアの多さにつながっている可能性がある。
まとめ
症状が重なり、原因も一つではないため、ASDにおけるカタトニアの見極めは難しくなる。今後も、脳の働き・構造・遺伝・環境(ストレス)など、いくつもの面からの研究が必要。
次回は、ASDとカタトニアの重なりと、どんな症状が起こりやすいかを見ていきます。
参考資料
・American Psychiatric Association. (2023). DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引 (第1版第1刷, 日本精神神経学会監修, 染矢俊幸・村井俊哉・他, Trans.). 東京: 医学書院. (Original work published 2023)
・Vaquerizo-Serrano, J., Salazar De Pablo, G., Singh, J., & Santosh, P. (2021). Catatonia in autism spectrum disorders: A systematic review and meta-analysis. European Psychiatry, 65(1), e4. https://doi.org/10.1192/j.eurpsy.2021.2259