パナソニック汐留美術館の「オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」*に行ってきました。
ルドンは個人的には不気味なノワールのイメージが強かったのですが、それは彼の一面であり、後年はパステルなど色彩に富む作風に傾倒しており、色鮮やかな作品もあり驚きました。


作品を見るほどに、彼は実に幅広いスタイルを試みる「探求家」なのだと感じました。
印象派の画家と同時期を生きながら、彼らとは違った独自の道を切り拓いていったことが伺い知れるユニークな作品が多かったです。
”私は他の画家と異なった、独立の画家になりました。今となっては、それが仕合せだったと思っています。今では公の組織の枝の外に、全く別の芸術作品の制作があり、芸術の液が循環しています。” (ルドン 2024: 22-23)
とはいえ、彼は自分の芸術を確立しながらも、決して他者の芸術に対して閉じていたわけではないことも感じられました。
彼の作品には、「顔」や「目」が多く描かれているのですが、横顔であったり、目線が虚空をさまよっているものが多く、内面を描いているとされながらも、”彼ら”表情は朧げで心情を窺い知れない。
なにか、他人の心の秘事を、覗き見てしているような不思議な印象を受けました。


文学にインスピレーションを受けながらも、独自のイメージに展開していく、クリエイティビティあふれる作品も魅力的でした。

(邦題『エドガー・ポーに』 I. 眼は奇妙な気球のように無限に向かう)
ルドンは文学を題材に作品を制作することも多かったが、描いたものは物語に登場するものそのものではなく、あくまでインスピレーションから自分なりに想像を発展させて生み出したものだった。
とにかく開拓意識が強く、いろんな可能性にオープンで、独自の創造力を突き詰めた人物だと感じました。
また、内面世界を描きながらも、「観察」と「自然」を重視している、彼の奥深さを垣間見られました。
”私は自分なりに一つの芸術を作りました。それは眼に見える世界の、不思議にも美しいものの上に眼を開いて、自然の法則、生の法則に、ひたすら従うことに努めて作ったものです。” (同 3)
”許される幻想として、想像の産物を、見える存在の構造の論理に従って、論理的に作り出して、ありそうな世界まで、それを拡げました。” (同 149)
参考文献
ルドン, オディロン『ルドン 私自身に』池辺一郎訳. 新装版. 東京: みすず書房, 2024.