読書の話をしていると、最近「目が滑る」と言う言葉をよく聞きます。なんとなく字面だけ追って頭に入ってこないんだろうなあ、とはわかるのですが、
今回は一歩踏み込んで「目が滑る」について見ていきましょう。
2つの原因
まず「目が滑る」は大きく2つの状況があります。
- 1つ目は、目は文字列の上を進んでいるのに、内容が頭に入ってこない状態で、マインドレスリーデイング(mindless reading)なんんて言われたりもします。アイトラッキング研究では、この状態だと凝視が短くなり、回帰(視線の戻り)が増えるなど、読み方そのものが変わることが示されています。
- もう1つは視線の制御やレイアウトの要因で、行や語をうまく捉え損ねてしまう状態。
例)
- 単語の読み飛ばしが増える(語の長さや予測しやすさに影響)。
- 改行で次の行へ飛ぶ大きなサッカード(視線を急速に動かす眼球運動)が行頭を行き過ぎたり手前で止まったりして、補正の小サッカードが増える(結果として数語〜数文字を見失いやすい)。
- 先日説明したビジュアル・クラウディング(文字が間隔のせいで見分けづらくなる現象)が強い版面だと、視線の当て方やパラフォベアル処理(先日記事参照。読んでいる言葉のとなりをチラ見して先取りすること)が不利になり、読みの安定が崩れる。
つまり何が起きているの?
- 注意の問題:内容から注意がそれると、目だけが自動運転で進み、意味の処理が落ちます(「気づいたら何行も読んでたのに覚えていない」)。
- 視線誘導の問題:文字サイズ・行長・行間・均等割付などのレイアウトや語の特徴によって、本来ねらうべき場所に視線が着地しづらくなる → 読み飛ばしや行頭への着地ミスが増え、「滑った」感覚につながります。
対処のヒント
- 文字レイアウトを調整する:文字を少し大きくし、行間を広げ、行長を短めにする。カラム設定や字間・行頭の見え方で視線のジャンプの挙動が変わる報告があります(効率そのものは大きく変わらないこともありますが、「滑り感」を減らす助けになります)。
- 環境を整える:コントラスト・照明・表示解像度を確保(クラウディングの悪化を避ける)。
- 注意を掴み直す工夫:指やペン先で行をなぞる、段落ごとに要点メモ/黙読→一文だけ小声で音読、などで「自動運転」から手動に戻す(マインドレス状態を割り込む)。
- 疲労・雑念の管理:短い区切りで読む・雑念が出たら章末で一旦停止→再開。