ヒューリスティックとは?
さて以前お話ししたように、ヒューリスティックとは、人間が意思決定を行う際に使う簡略化された「経験則」や「直感的判断方法」のことを指します。複雑な問題を完全に分析するのではなく、簡便で効率的な方法で迅速に意思決定を行うための認知的ショートカットです。
例えば、
- 代表性ヒューリスティック(representativeness heuristic)
ある事象が典型的なパターンにどの程度似ているかによって、その事象が起こる確率を判断する。
(例:「メガネをかけた知的そうな男性」を見て、「教授」だと推測する) - 利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)
自分が簡単に思い出せる事例ほど、その事象が起こる確率を高く評価する。
(例:「飛行機事故のニュースを見た直後に飛行機に乗るのを怖く感じる」)
バイアスとは?
一方、バイアスとは、人間の判断や意思決定において一貫して生じる「認知の偏り」のことを指します。
例えば、
- 確証バイアス(confirmation bias)
自分の既存の信念を裏付ける情報ばかりに注目し、反対の情報を無視する傾向。 - アンカリングバイアス(anchoring bias)
初めに提示された数字や情報(アンカー)に影響を受けて、その後の判断が偏ってしまう現象。
ヒューリスティックとバイアスの関係
ヒューリスティックを用いると、通常は迅速で効率的に意思決定が可能となりますが、その副作用としてバイアスが発生しやすくなります。
簡単に図式化すると以下のようになります:
複雑な状況 → ヒューリスティック(簡便な判断) → バイアス(判断の偏り)
つまり、ヒューリスティックは人間の認知資源を節約することができるのですが、その一方で、
- 情報不足や認知能力の限界
- 感情や欲求の影響
- 経験や記憶に基づく偏った情報処理
が起きると、バイアス生じ非合理的な判断やミスにつながるのです。
ヒューリスティックによるバイアスを避けるための5つの方法
- 客観的データの重視
個人の直感や経験に頼らず、客観的なデータや統計情報を意思決定の根拠として用いる。 - 複数の視点や反証を考慮する
意識的に反証や別の視点を探すことで、確証バイアスを抑制し、思考の偏りを減少させる。 - 意思決定プロセスの体系化
決定の根拠や評価基準を明文化し、体系的に段階を踏むことで、衝動的判断やアンカー効果の影響を低減する。 - 認知負荷の軽減
複雑な判断や多くの情報処理が必要な場合には、休息を取ったり、情報を整理して段階的に処理することで、ヒューリスティックによるバイアスを抑える。 - 意識的なスローダウン(認知的熟考)
急いで判断せず、一度立ち止まって冷静に検討する(システム2思考)ことで、ヒューリスティックによる直感的な誤りを減らす。