先日、自閉的慣性(タスクや状態の「始める・止める・切り替える」が難しいASDの特徴)の話をしましたが、「モノトロピズム」=興味のあることに注意が集中しやすい。なんて言葉があることも知りました。
モノトロピズムとは
- 人の注意資源には限りがあり、少数の興味に注意が強く引き寄せられやすい傾向(=モノトロピズム)と、広く分散しやすい傾向(=ポリトロピズム)がある、という考え。ASDでは前者が強いとみなす理論です。
なぜそう言える?
- 注意は有限資源。“強く惹かれている興味=注意トンネル”に資源が集中すると、同時並行処理(会話での言語+表情+状況文脈の同時統合や、課題の切替など)にコストがかかりやすい。逆に、現在の関心に合致する課題では深い集中と高い遂行が起きやすい、と理論づけ。(ワーキングメモリの有限性の考え方とASDのこだわりの掛け合わせ的な感じですね)
強みと弱み
- 強み:関心領域での深い没入・高精度な集中(ハイパーフォーカス)、持続的な探究。
- 弱み:注意の切替(set-shifting)、複数チャンネル入力の同時処理、興味外刺激への反応・処理の遅れなどが相対的に起こりやすい。
実証的裏付け
さてこの「ASDで興味のあることに注意が集中しやすい」モノトロピズム理論ですがまだまだ新しい考え方で「部分的に支持されつつある」が、ASDに特有のものか・どのメカニズムで生じるかは未確定という現状です。 2005年の理論提案以降、直接検証する実証研究は近年(主に2024年〜)増加しましたが、結果は「一貫してASD>非ASD」というほど明確ではなく、ADHDなど他の神経発達プロファイルとも重なるトランス・ダイアグノスティック(診断横断的)な注意特性として示されることもあります。
- ASDの行動を「注意のスポットライトが狭く当たりやすい」と説明した枠組み。発表当時は、まだ実験での確かめは少なかった。
- 2〜4歳を対象に視線を測ると、ASDだからといって、つねに注意を切り替えにくいとは限らなかった。
でもASDの子どもの中では、注意がくっつきやすいほど感覚過敏や“強いこだわり”と関係が見られた。さらに新しいものに一度向いても、なじみのあるものに注意がパッと戻る動きも観察された。
→ 「好き・なじみに引き寄せられる」という理論の核心には合うけど、単純な“ASDだけが過集中”モデルではないことも示した。^1 - ASD、ADHD、両方、どちらでもない人の計約500人を比べると、過集中も不注意も全体的に高く、しかも互いに関連していた。
過集中はQOLの低下や不安・反すうと結びつく一方、うまく働く過集中は良い影響もある。
→ モノトロピズムの要点(関心駆動で深く潜る)は支持されるが、ASDに特有とは言えない可能性も。^2 - 過集中はASDに限らずいろいろな臨床集団で見られる。そもそも過集中の定義や測り方がまだ統一されていないのが研究の難点。
- 最新データを踏まえると、ASDは「興味対象への強い集中」になりやすい可能性が高い。ただし注意の偏りがどれだけ“全般的”かは議論中で、理論は検証が続く段階。
ASDのメカニズムの説明には便利な言葉ですが、今までASD(むしろADHD)で言われてきたことと変わらない感じもしますね。今後の研究に注目。
^1 Dwyer, P., Sillas, A., Prieto, M., Camp, E., Nordahl, C. W., & Rivera, S. M. (2024). Hyper-focus, sticky attention, and springy attention in young autistic children: Associations with sensory behaviors and cognitive ability. Autism Research, 17(8), 1677–1695. https://doi.org/10.1002/aur.3174
^2 Dwyer, P., Williams, Z. J., Lawson, W. B., & Rivera, S. M. (2024). A trans-diagnostic investigation of attention, hyper-focus, and monotropism in autism, attention dysregulation hyperactivity development, and the general population. Neurodiversity, 2, 27546330241237883. https://doi.org/10.1177/27546330241237883